ユマニチュードとは
介護をするなかで「ユマニチュード」という言葉を聞いたことのある方も多いでしょう。ユマニチュードはフランス発祥のケア技法で、特に認知症の方に効果的だと注目されています。
ユマニチュードは基本的な技術である「4つの柱」と、ケアの順番を示す「5つのステップ」で構成される技法です。介護を専門にしていない一般の方でも、実践しやすい内容になっています。
今回は「すぐに実践したい」という方に向けて、ユマニチュードの考え方や「4つの柱」「5つのステップ」の内容を紹介します。
ユマニチュードとは
ユマニチュードは、フランスで開発されたケアの技法です。単に技術に特化した方法ではなく「人間とは何か」「ケアする人とは何者か」という哲学にもとづいて生まれました。
「ユマニチュード(Humanitude)」とは「人間らしくある」「人間らしさを取り戻す」という意味を持つフランス語の造語になります。ケアが必要なあらゆる人が対象ですが、特に認知症を持つ方や高齢者のケアで有効と考えられている技法です。
実際にユマニチュードの効果が得られた例として、次のような報告があります。
- 数年間、寝たきりだった方が自分で立てるようになった
- 攻撃的と思われていた方がケアを受け入れて笑顔を見せるようになった
ユマニチュードでは「あなたのことを大切に思っています」という気持ちを、言語または非言語のコミュニケーションで伝えることが重視されています。また、コミュニケーションに必要な技術や具体的な手法も定められています。
ユマニチュードは、家族や介護職などケアにあたる方であれば誰でも学んで実践できます。決して専門職だけに限られた技法ではないことも、注目を集める理由の1つでしょう。
ユマニチュードの誕生
ユマニチュードは1979年、フランスの体育学の専門家であるイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティによって提唱されました。
2人は実際にケアの現場に携わるなかで、専門職があらゆるケアをやりすぎていることに気づきました。例えば「歩けるのに車イスを使う」「立てるのに寝たきりで生活させる」という状態です。そこで本人が持つ能力を生かし健康を維持するための技法として、ユマニチュードを生み出しました。
日々のケアで成功したときと失敗したときの違いを研究し、柱となる4つの方法やケアの手順を開発したのです。このように現場での試行錯誤を経て編み出された技術であることも、ユマニチュードの特徴の1つといえます。
日本でのユマニチュードの始まり
ユマニチュードはもともとフランスのケア技法ですので、日本では知られていませんでした。日本で初めてユマニチュードのケアが実践されたのは、2012年のことです。国立病院機構東京医療センター総合内科医であった本田美和子氏が、前年の2011年にフランスを訪れてユマニチュードの考え方を学んだことがきっかけで、日本でもユマニチュードが導入されました。
2014年1月には、日本国内での研修や研究の拠点となる「ジネスト・マレスコッティ研究所日本支部」が発足。2015年にデジタルセンセーション株式会社(現・株式会社エクサウィザーズ)によるユマニチュード研修が始まり、続いて自治体のプロジェクトや大学の研究など徐々に広がりを見せました。
2019年7月には「ジネスト・マレスコッティ研究所日本支部」を前身とする「日本ユマニチュード学会」が設立され、現在もさらなる普及や研究を進めています。
認知症の症状とは
ユマニチュードはケアを受ける方の尊厳を維持することを重視した考え方です。認知症の方にも効果的とされています。認知症の症状には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」の2種類に分けられます。
- 中核症状: 記憶障害、理解・判断の障害など
- 周辺症状: 不安・抑うつ、暴力・暴言など
認知症の症状には、思うように意思疎通ができない場合があるため、ケアする側が理解し尊厳を重視することが大切です。
思いを伝えるための「4つの柱」とは
ユマニチュードの根幹にあるのは「あなたは大切な存在です」という思いを伝えることです。ユマニチュードでは「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの技術を用いて、相手に思いが分かるように伝えます。
これらは「マルチモーダル・ケア」と呼ばれる考え方に基づいています。4つの技術は単独で使うのではなく、組み合わせて実施することが重要です。
ケアのための「5つのステップ」とは
ユマニチュードには「4つの柱」に加えて「5つのステップ」があります。
ケアのための「5つのステップ」とは
ユマニチュードの「5つのステップ」は、ケアを行う際に実践する具体的な方法です。これにより、認知症の方とスムーズにコミュニケーションを取りながら、より良いケアを提供することができます。5つのステップは以下の通りです:
- 接近
ケアを始める前に、相手に自分が近づくときは静かに、優しく接近します。急に近づかず、相手が気づくようにゆっくりと接近することが大切です。
- 目線を合わせる
相手が自分を認識できるように、目線を合わせることが重要です。顔の高さを合わせ、安心感を与えることがコミュニケーションの第一歩です。
- 言葉をかける
相手にやさしく、安心感を与える言葉をかけます。認知症の方が混乱している場合でも、穏やかな言葉で話しかけることで、落ち着きが生まれることがあります。
- 触れる
触れることは、安心感を与える大切な方法です。手を軽く握ったり、肩に手を置いたりすることで、心のケアにもつながります。ただし、相手が不快に感じないよう、適切なタイミングで触れることが大切です。
- 動作を一緒に行う
相手が自分で動作をするのが難しい場合、一緒に手伝いながら行動することが重要です。例えば、食事を一緒に食べたり、歩くときに一緒に歩いたりすることで、相手の自立を促すことができます。
ユマニチュードを実践するためのポイント
ユマニチュードを実践する際には、以下のポイントを意識するとより効果的です:
- 相手のペースに合わせる
相手が焦らずに自分のペースで進むことができるように、急がず、必要に応じてペースを調整します。
- 表情と態度に注意する
言葉だけでなく、表情や態度も大切です。穏やかな表情と優しい態度で接することが、安心感を与えます。
- 一貫性を持ってケアをする
ユマニチュードは一貫性が重要です。毎回同じ方法で接することで、相手に安定感を与えることができます。
- 感情を共有する
相手の感情を尊重し、共感を示すことが大切です。相手が不安や怒りを感じている場合、その気持ちに寄り添い、安心感を与えることが重要です。
ユマニチュードは、ケアを行うすべての人々に役立つ技法です。これを実践することで、認知症の方々の生活の質を向上させ、より安心した生活をサポートすることができるでしょう。