褥瘡予防のための「背抜き」について

背抜きとは?

背抜きとは、電動ベッドなどで背を上げた際や、移乗・体位変換後に生じる皮膚や筋肉の圧迫感・違和感を取り除くケア方法です。ベッドと体の間にできるずれを解消し、シーツや衣類のしわを整えることで、圧迫を軽減し快適な姿勢を維持することができます。

背抜きの効果

1. 褥瘡(床ずれ)の予防

長時間同じ姿勢を続けると血行不良が起こり、褥瘡が発生しやすくなります。特にベッドの背上げ時に生じる「ずれ力」は、仙骨部やかかとに強い圧力をかけるため、適切な背抜きを行うことで圧力を軽減し、褥瘡予防に役立ちます。

2. 誤嚥の予防

背抜きをしないと、不自然な体勢になり、誤嚥のリスクが高まることがあります。姿勢を整えることで、安全に食事をとることができ、誤嚥性肺炎のリスクを低減できます。

3. 違和感・不快感の軽減

ベッドの背上げや体位変換時に、シーツや衣類のしわが圧迫感を生じさせます。背抜きを行うことで、これらの違和感を解消し、より快適な状態を維持できます。

背抜きの方法

手順1:背中のずれを解消

  1. 片手を肩の下に入れ、わずかに持ち上げる。
  2. もう片方の手で服やシーツのしわを伸ばす。

手順2:腰のずれを解消(尻抜き)

  1. 片手で腰を軽く持ち上げる。
  2. もう片方の手を差し込み、シーツや衣類のしわを整える。

手順3:かかとのずれを解消(足抜き)

  1. 片手でかかとを支える。
  2. もう片方の手でズボンの裾やシーツを整える。

背抜きに役立つ介護用品

背抜きを行う際、介護者と要介護者双方の負担を軽減するため、以下のような介護用品が活用できます。

  • ポジショニンググローブ:摩擦を減らし、スムーズなケアが可能。
  • ポジショニングシート:滑りやすい素材で、ずれを軽減しながら楽に姿勢を調整できる。
  • スライドシート:移乗や姿勢調整を容易にするため、介護現場で広く利用されている。

まとめ

背抜きは褥瘡予防に効果的な方法であり、姿勢を整えることで誤嚥リスクの軽減や快適性の向上にも寄与します。寝たきりの方や電動ベッドを使用する場合には特に重要なケアとなります。背抜きだけでは十分な血流改善ができない場合もあるため、マッサージや体位変換と組み合わせることが推奨されます。

高齢者の着替え拒否の原因と対策

日常生活の中で、着替えをする場面は多くあります。しかし、高齢者の中には、さまざまな理由から着替えを拒否することがあります。その結果、ご本人やご家族にとって負担が大きくなることも。本記事では、着替え拒否の原因とその対策について詳しく解説します。

1. 着替え拒否の背景を理解する

着替えはプライベートな行為であり、認知機能を必要とする複雑な作業です。例えば、パジャマのままで過ごしたり、外出着と部屋着の区別がつかなくなったりすることが、認知症の初期症状として現れることがあります。

また、他人に手伝われることが自尊心を傷つける場合も。子ども扱いされているように感じ、拒否反応を示すことも少なくありません。そのため、言葉遣いや態度に注意しながら、尊厳を保つ介助が求められます。


2. 着替え拒否の主な原因と対策

原因1:着替えの仕方がわからない

認知症の影響で、

  • どの順番で服を着るのかわからない(実行機能障害)
  • どのように服を着ればいいのかわからない(失行)
  • 服を脱いでいたのか、着ていたのか忘れる(記憶障害) といった問題が生じることがあります。

対策:

  • 服を順番に並べて、上から手に取れば正しく着られるように工夫する
  • かぶりの服が難しい場合は、前開きの服を用意する
  • 必要な部分だけ手伝い、できるだけ自分でできるように促す

原因2:介助されることで自尊心が傷つく

他人に手伝われることがストレスになり、拒否につながる場合があります。

対策:

  • 「ついでに手伝っている」という状況を作る(例:洗濯物を片付けるフリをしながら見守る)
  • 「暑いから」「寒いから」など、気候を理由にして着替えを促す
  • できることを本人に任せ、指示ではなく提案の形で声かけをする

原因3:集中力が続かない

高齢者は集中力が低下し、途中で嫌になってしまうことがあります。特に冬場は衣類の種類が増え、着替えに時間がかかるため、疲れやすくなります。

対策:

  • 一度にすべて着替えさせるのではなく、分割して着替えを促す
  • ボタンが多い服を避け、ワンタッチテープ式の衣服を選ぶ
  • ボタンを全部留めずに、一番上と下だけ介助する

原因4:身体的な問題がある

関節が動かしにくい、バランスを崩しやすいといった身体的要因が影響している場合もあります。

対策:

  • 伸縮性のある服や着脱しやすい衣類を選ぶ
  • 転倒防止のため、手すりを設置する
  • 介護専門職に相談し、痛みの少ない着替えの方法を教えてもらう

3. 介護者が気をつけるべきこと

  • 叱らない・急かさない 拒否されても、イライラして強制すると逆効果。本人のペースを尊重しましょう。
  • 穏やかな声かけを心がける 「ちゃんとできますか?」ではなく、「このボタンを留めてみる?」と優しく声をかける。
  • 環境を整える 着替えやすい服を用意し、必要に応じて福祉用具を活用する。

着替えの拒否は、さまざまな要因が絡み合って起こります。原因を理解し、本人の尊厳を守りながら、無理なくサポートしていきましょう。

高齢者・要介護者の水分補給:拒否された時の対策とおすすめの飲み物

高齢者や要介護者にとって、水分補給は健康を維持するために非常に重要です。水分不足は、めまいや頭痛、脱水症状など、さまざまな体調不良を引き起こす可能性があります。この記事では、介護における水分補給の重要性、水分補給を拒否された場合の対処法、おすすめの飲み物などを詳しく解説します。

介護において水分補給が必要な理由

私たちの体の大部分は水分で構成されており、水分は体の機能を正常に保つために不可欠です。特に高齢者は、以下のような理由から水分不足になりやすい傾向があります。

  • 筋肉量の減少: 筋肉は水分を蓄える役割を果たしますが、高齢になると筋肉量が減少し、体内に蓄えられる水分量も減少します。
  • 腎機能の低下: 腎臓は水分調節に重要な役割を果たしますが、高齢になると腎機能が低下し、水分を保持する能力が低下します。
  • 喉の渇きを感じにくくなる: 高齢になると、喉の渇きを感じる機能が低下し、水分不足に気づきにくくなります。

これらの理由から、高齢者は脱水症状を起こしやすく、注意が必要です。

一日に必要な水分量

高齢者や要介護者が1日に必要な水分量は、約1,000〜1,500mlと言われています。ただし、個人の体重や活動量、健康状態によって異なるため、医師や看護師に相談して適切な量を把握することが大切です。

水分補給を拒否された場合の対処法

高齢者や要介護者の中には、さまざまな理由で水分補給を拒否する方がいます。そのような場合は、以下の方法を試してみましょう。

  • 理由を丁寧に聞く: なぜ水分を摂りたくないのか、理由を丁寧に聞き取り、不安や不快感を取り除くように努めます。
  • 飲みやすい工夫: 嚥下機能が低下している場合は、とろみをつけたり、ゼリー状にしたり、飲みやすい温度に調整したりします。
  • 好きな飲み物: 本人の好みに合わせた飲み物を提供し、水分補給を促します。
  • 時間と回数: 一度に大量の水分を摂るのが難しい場合は、時間を決めて少量ずつ、こまめに水分補給を行います。
  • 食事からの水分補給: スープや味噌汁、果物など、水分を多く含む食品を積極的に取り入れます。
  • 安心できる環境: トイレの心配がある場合は、ポータブルトイレや尿漏れパッドを用意し、安心して水分補給できる環境を整えます。

水分補給で注意すべき点

  • 姿勢: 誤嚥を防ぐために、前傾姿勢で水分補給を行います。
  • 嚥下障害: 嚥下障害がある場合は、とろみをつけるなどの工夫が必要です。
  • 塩分: 発汗が多い場合は、水分だけでなく塩分も補給します。
  • 脱水症状: 脱水症状のサイン(口渇、尿量減少、意識混濁など)に注意し、早めの対策を心がけます。
  • 過剰摂取: 水分の過剰摂取は、水中毒を引き起こす可能性があります。医師や看護師に相談し、適切な水分量を把握しましょう。

水分補給におすすめの飲み物と避けるべき飲み物

おすすめの飲み物:

  • 水、麦茶
  • 経口補水液
  • 野菜ジュース、フルーツジュース
  • 牛乳、ヨーグルト、甘酒

避けるべき飲み物:

  • カフェインを多く含む飲み物(コーヒー、紅茶など)
  • アルコール飲料
  • 炭酸飲料

これらの飲み物は利尿作用や、アルコール分解に水分を大量に消費してしまう為、水分補給には不向きです。

食事からの水分補給

水分は飲み物だけでなく、食事からも摂取できます。以下の食品を積極的に取り入れましょう。

  • おかゆ、雑炊
  • スープ、味噌汁
  • 果物(スイカ、みかんなど)
  • ゼリー、プリン

まとめ

高齢者や要介護者の水分補給は、健康維持に欠かせません。適切な水分補給の方法を理解し、安全で快適な生活をサポートしましょう。

延長可能時間変更のお知らせ

平素より弊社サービスをご利用いただき、誠にありがとうございます。

4月より、お客様の利便性向上のため、延長可能時間の単位を変更いたします。
従来は 30分単位 での延長でしたが、15分単位 での延長が可能となります。

今後も、より快適にご利用いただけるよう努めてまいりますので、引き続きご愛顧賜りますようお願い申し上げます。

何かご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

高齢者の仙骨座りとは?原因と対策を徹底解説

1. 仙骨座りとは?

仙骨座りとは、椅子や車椅子に座る際、骨盤が後傾し、仙骨が座面に直接接触して支えている座位姿勢のことを指します。

この座り方は「ずり落ちそうな座り方」とも言われ、長時間続くと背骨への負担が増し、胸椎や腰椎の変形、褥瘡(床ずれ)のリスクが高まります。特に介護施設などで仙骨座りのまま長時間過ごすと、身体の変形や皮膚トラブルを引き起こしやすくなるため注意が必要です。


2. 高齢者の仙骨座りと骨盤の関係

仙骨は脊柱の最下部に位置し、骨盤の一部を形成する骨です。通常の座位姿勢では、仙骨と座骨に均等に体重がかかります。しかし、仙骨座りになると仙骨に過度な圧力が集中し、褥瘡の原因となります。

また、高齢者の場合、寝たきりを防ぐための離床が推奨されていますが、車椅子での座位環境が適切でないと、仙骨座りが慢性化し、二次的な健康被害を引き起こすことがあります。


3. 仙骨座りのリスク(褥瘡・誤嚥など)

① 姿勢の悪化

仙骨座りが続くと、体幹の筋緊張が亢進し、より不良姿勢を助長します。これにより、呼吸や内臓機能の低下、腰痛の発生リスクが高まります。

② 褥瘡の発生

長時間仙骨座りのままでいると、仙骨部への圧力が高まり、皮膚の血流が悪化することで褥瘡が発生しやすくなります。

③ 誤嚥のリスク

仙骨座りの姿勢で食事をすると、頭部が後方に傾きやすくなり、誤嚥のリスクが上昇します。誤嚥性肺炎の原因にもなるため、座位姿勢の調整が重要です。


4. 仙骨座りの原因

仙骨座りの主な原因として以下が挙げられます。

  • 車椅子のサイズが適切でない
  • 座面の奥行きが深すぎる
  • フットレストに足が届かず、ぶらぶらしている
  • 円背(背中が丸くなる)による姿勢の崩れ
  • 筋力低下や関節の可動域制限

特に車椅子の選定が適切でない場合、無意識のうちに仙骨座りになりやすくなります。


5. 仙骨座りの対策・リハビリ方法

仙骨座りを防ぐためのポイントは以下の通りです。

  • 適切な車椅子の選定と調整
  • クッションの活用による座位姿勢の補助
  • 座位の評価と定期的なリハビリ
  • 体幹や下肢の筋力強化トレーニング

6. 仙骨座り対策としての車椅子選びのポイント

車椅子選びのポイント

  • 座面の奥行きを適切に調整(深すぎると後傾しやすい)
  • 足がフットレストにしっかり乗るように調整
  • 背もたれの角度を適切に設定
  • ずれ防止のための補助具(クッションなど)を活用

7. 仙骨座り対策としてのクッション(シーティング)のポイント

適切なクッションを使用することで、仙骨座りを予防できます。

クッション選びのポイント

  • 滑りにくい素材のクッションを選ぶ
  • 体圧分散に優れたものを使用する
  • 厚みがありすぎると逆に不安定になるため、適切な高さを選ぶ

特に車椅子の座面が硬く、滑りやすい素材の場合、適切なクッションを導入することで座位姿勢の安定が期待できます。


8. 仙骨座りを改善するための評価とリハビリ方法

仙骨座りの評価方法

  1. 平らな座面に背もたれなしで座れるかを確認
  2. 前かがみの動作がスムーズにできるかを評価
  3. 骨盤の可動域をチェック

リハビリ方法

  • 骨盤前傾のトレーニング(端座位で前かがみになる練習)
  • 体幹・下肢の筋力強化(スクワットやストレッチ)
  • リハビリ専門職(理学療法士・作業療法士)による姿勢調整

9. まとめ

高齢者の仙骨座りは、長時間続くと健康リスクが高まり、褥瘡や誤嚥の原因になります。そのため、

  • 適切な車椅子の選定
  • クッションなどの補助具の活用
  • 定期的な座位姿勢の評価とリハビリ

を行うことが重要です。

介護やリハビリの現場で適切な対策を講じることで、高齢者が快適に過ごせるようサポートしていきましょう。

「寝たきり介護」をするときの5つの注意点

寝たきりの高齢者は、自分の意思で身体を動かすことが困難なため、適切な知識がないと症状の悪化を招くことがあります。ここでは、自宅で介護する際に注意すべき5つのポイントを紹介します。

1. 「床ずれ」に注意する

寝たきりの状態では、同じ姿勢が続くことで「床ずれ(褥瘡)」が発生しやすくなります。皮膚の一部が持続的に圧迫を受け、循環障害が起こることで壊死してしまう症状です。

床ずれを防ぐためのポイント

  • 2時間ごとに体位交換を行う
  • 身体に合った寝具を使用する
  • シーツをピンと張る
  • 下着やパジャマのゴムが食い込まないようにする
  • 栄養をしっかり摂る

特に高齢者の皮膚はデリケートなので、小さなシワや衣類の締め付けにも注意しましょう。

2. 「廃用症候群」を予防する

長期間寝たきりの状態が続くと、筋力や関節機能が低下し、「廃用症候群(生活不活発病)」を引き起こします。

予防のための対策

  • できるだけ短い距離でも歩くようにする
  • 体位交換を定期的に行う
  • 座る時間を増やす
  • 関節をゆっくり動かす
  • ベッド上でできる簡単な運動を行う(足首を回す、手足を曲げ伸ばしする など)

3. 食事時の「誤嚥」を防ぐ

高齢者の食事では、誤嚥による肺炎のリスクが高まります。誤嚥とは、飲み込む力が衰え、食道を通るべきものが気管に入ってしまう状態です。

誤嚥を防ぐためのポイント

  • 正しい姿勢で食事をする(椅子に深く腰掛け、膝は90度に曲げる)
  • ベッド上の場合、リクライニング角度を45〜80度に調整する
  • 食事前に排泄を済ませ、口腔内を清潔にする
  • できるだけ自分で食べるように促す

また、食欲が低下している場合は、噛む力や飲み込む力が衰えている可能性があるため、食事の形態を工夫することも大切です。

4. 「排泄ケア」は自尊心を尊重する

寝たきりの方の排泄介助では、プライバシーや自尊心を傷つけないよう注意が必要です。

排泄ケアのポイント

  • 排泄を促す声掛けをし、ルーティン化する(食前後や就寝前など)
  • できることは自分でしてもらう
  • 便器が使える場合は可能な限り利用する
  • おむつ交換はスムーズに行う

おむつ交換の際は、肌が湿ったままにならないようにしっかり拭き取ることが大切です。また、便が尿道に入らないよう拭き方にも注意しましょう。

5. 身体を清潔に保ち「床ずれ」を防ぐ

寝たきりの方は入浴が困難になるため、皮膚免疫の低下による床ずれや感染症のリスクが高まります。

身体を清潔に保つ方法

  • 蒸しタオルで身体を拭く「清拭(せいしき)」を行う
  • 介護保険サービスを活用し「訪問入浴介護」を利用する

清拭には、血行促進やリラックス効果があり、床ずれの早期発見にもつながります。また、訪問入浴介護を利用すると、看護師のサポートを受けながら入浴できるため安心です。


まとめ

寝たきり介護では、

  1. 床ずれの予防
  2. 廃用症候群の防止
  3. 誤嚥のリスク管理
  4. 排泄ケアの工夫
  5. 身体の清潔維持

が重要なポイントとなります。

ご家族や介護者にとっても大変な負担がかかるため、介護サービスの活用も視野に入れながら、無理のない介護を心がけましょう。

【シーティングとは?】円背姿勢の改善と快適な座位姿勢のポイント

シーティングとは?

座位姿勢が悪いと、体にさまざまな悪影響を及ぼすことがあります。シーティングとは、長時間座位を続ける方の心身機能や生活状況を考慮し、良好な座位姿勢が確保できるように、車椅子や椅子を調整することを指します。

今回は、特に円背姿勢(背中が丸くなる姿勢)の方に向けたシーティングについて解説します。


円背姿勢の方のシーティング

円背姿勢とは?

円背姿勢の方は、背骨の変形や背中の筋力低下により、背中を丸めた姿勢で座っています。

この姿勢は一見楽なように思えますが、長時間続くと以下のような影響があります。

  • 胸部や腹部が圧迫され、呼吸がしづらくなる
  • 消化吸収が悪くなる
  • 首の後ろの筋肉に負担がかかり、疲れやすくなる
  • 背骨がさらに曲がり、前かがみの姿勢が悪化する
  • 骨盤が後ろに倒れやすく、お尻が滑りやすくなる

理想的な座位姿勢とは?

S字カーブを描いた姿勢が理想的です。この姿勢を保つことで、

  • 背骨を支える筋肉が効率よく働き、疲れにくい
  • 重心線が耳・肩・骨盤を通り、バランスが安定する
  • 手や体を前方に動かしやすくなり、食事や作業が快適になる

この姿勢をとるためには、座面や背もたれの調整が重要です。


シーティングの方法

理想的な座位姿勢を確保するための調整ポイントは以下の通りです。

  1. 臀部のスペースを確保する
    • 座面にしっかりとお尻が収まるようにする。
  2. 骨盤を安定させる
    • 骨盤が後ろに倒れないように、骨盤の上を押さえるベルトを使用。
  3. 胸を張れるようにする
    • 背もたれの上部を少し緩めることで、胸を自然に張りやすくする。
  4. 背骨のカーブをサポートする
    • 背もたれの調整や、背骨のカーブに合わせた軽いサポートを加える。

アンカーサポート付きのクッションを使用すると、より効果的に姿勢を維持できます。

褥瘡予防に効果的な「背抜き」の方法とその効果

背抜きとは?

「背抜き」という床ずれ(褥瘡)の予防方法をご存じですか? 寝たきりの方を介護していると、長時間同じ姿勢が続き、皮膚や筋肉に負担がかかることがあります。背抜きを行うことで、その圧迫感や違和感を和らげることができます。

今回は、在宅介護で実践しやすい「背抜き」の方法や効果について、わかりやすくご紹介します。


背抜きの目的と効果

1. 褥瘡(床ずれ)の予防

褥瘡は、同じ姿勢を続けることで血行が悪くなり、皮膚や組織が損傷することで発生します。特に、体の重みが集中しやすい仙骨部やかかとなどに発生しやすいです。

背抜きを行うことで、ベッドと体の間に適度な隙間を作り、皮膚への圧迫を軽減し、褥瘡の予防に役立ちます。

2. 誤嚥の予防

圧迫感や違和感があると、無意識に体勢を変えようとして姿勢が崩れ、誤嚥(食べ物や唾液が気道に入ること)につながることがあります。 背抜きを行い、適切な姿勢を保つことで、誤嚥のリスクを減らすことができます。

3. 違和感や不快感の軽減

長時間同じ姿勢でいると、背中や腰に圧迫感が生じ、不快感を感じやすくなります。また、ベッドの昇降時に衣類やシーツのしわができることも、違和感の原因になります。

背抜きを行うことで、これらの不快感を和らげ、快適な状態を保つことができます。


背抜きの方法

1. 背中の圧迫を軽減する

  1. 片手を肩の下あたりに入れ、軽く持ち上げて隙間を作る。
  2. 反対の手を使って、服やシーツのしわを伸ばす。

2. 腰(尻抜き)の圧迫を軽減する

  1. 片手で腰を軽く持ち上げる。
  2. もう片方の手で服やシーツのしわを伸ばす。

3. 足(足抜き)の圧迫を軽減する

  1. 片手でかかとを下から支える。
  2. もう片方の手でズボンの裾を持ち、しわを伸ばす。
  3. シーツも合わせて整える。

背抜きをサポートする介護用品

ポジショニンググローブやスライドシート

介護現場では、摩擦を減らし、介護者と要介護者双方の負担を軽減するために、ポジショニンググローブやスライドシートがよく使われます。

おすすめ商品:スライドシート(パイプ状)

  • 折りたたまずに使用でき、滑らかな表面でスムーズな移乗をサポート。
  • ベッドから車椅子やリクライニングチェアへの移動を楽に。

まとめ

背抜きは、電動ベッドを使用している場合はもちろん、寝たきりの方の介護にも有効な方法です。 定期的に行うことで、褥瘡の予防や誤嚥防止、快適な姿勢維持につながります。

また、背抜きだけで血流の改善が難しい場合は、軽いマッサージなども併用するとより効果的です。

日々の介護に取り入れ、快適な環境を整えましょう。

ものとられ妄想とは?かかわり方のポイント

物盗られ妄想の原因と対応

認知症に関連する妄想の一つに、「物盗られ妄想」があります。この妄想は、大事な物が盗まれたと訴える症状です。このページでは、物盗られ妄想の原因やその対応、改善策について詳しく解説します。

目次

  • 物盗られ妄想とは
  • 出現頻度が高い妄想
  • 身近な人が疑われやすい
  • 物盗られ妄想が起こる原因
  • 物盗られ妄想が起こった時の対応
  • 物盗られ妄想に対処する方法

物盗られ妄想とは

物盗られ妄想は、認知症でよく見られる被害妄想の一つで、重要な物を盗まれたと思い込む症状です。特に財布や現金、貯金通帳、宝石類など、財産に関連するものを盗まれたと訴えることが多いです。

認知症では、記憶障害が影響して「自分が物を置き忘れた」ことを忘れてしまうため、すぐに「盗まれた」と思い込むことがあります。


出現頻度が高い妄想

物盗られ妄想は、認知症患者において比較的頻繁に見られる症状です。調査によると、認知症の患者の約15%が妄想を経験し、その中でも特に財布や貯金通帳が盗まれたと訴える物盗られ妄想が8割以上を占めています。


身近な人が疑われやすい

物盗られ妄想が発生すると、最も疑われるのは、介護をしている身近な人です。特に、お嫁さんや娘さん、またはヘルパーや施設の職員などが疑われることが多くあります。


物盗られ妄想が起こる原因

  1. 記憶障害や思考力の低下
    認知症によって記憶障害が進行すると、自分で物をしまったことを覚えていられません。また、思考力の低下も影響し、失われた物を「盗まれた」と解釈することがあります。
  2. 不安感や喪失体験の連続による怒りや悲しみ
    高齢になると、親しい人や財産を失ったり、健康に不安を感じることが多くなります。これらの喪失体験が蓄積され、物が見当たらないときに「誰かが盗んだ」と感じることがあります。

物盗られ妄想が起こった時は

  1. 落ち着いて話を聞く
    妄想を否定せず、「それは大変ですね」などと同意して話を聞きましょう。その後、物を探しながら「一緒に探してみましょう」と声をかけ、見つかった場合は「よかったですね」と肯定的に対応しましょう。
  2. 別の話題に変えてみる
    興奮している場合は、物の話から別の話題(例えば、好きなテレビ番組や食事の話)に切り替えることで、落ち着かせることができます。

物盗られ妄想に対処する方法

  1. 話を聞く機会を増やし、不安感を軽減する
    本人が不安を感じていないか、日常的に話を聞くことで、物盗られ妄想が改善されることがあります。
  2. サービスの利用で介護負担を減らす
    家族だけでは感情的になりがちなため、ケアマネージャーに相談し、デイケアなどのサービスを利用して介護負担を軽減しましょう。
  3. 医療機関で診察を受ける
    妄想がきっかけで認知症が発見されることもあります。初期段階での診察を受けることで、症状改善や進行抑制が期待できます。

ユマニチュードとは?認知症ケアに重要な4つの柱と5つのステップ

ユマニチュードとは
介護をするなかで「ユマニチュード」という言葉を聞いたことのある方も多いでしょう。ユマニチュードはフランス発祥のケア技法で、特に認知症の方に効果的だと注目されています。

ユマニチュードは基本的な技術である「4つの柱」と、ケアの順番を示す「5つのステップ」で構成される技法です。介護を専門にしていない一般の方でも、実践しやすい内容になっています。

今回は「すぐに実践したい」という方に向けて、ユマニチュードの考え方や「4つの柱」「5つのステップ」の内容を紹介します。


ユマニチュードとは
ユマニチュードは、フランスで開発されたケアの技法です。単に技術に特化した方法ではなく「人間とは何か」「ケアする人とは何者か」という哲学にもとづいて生まれました。

「ユマニチュード(Humanitude)」とは「人間らしくある」「人間らしさを取り戻す」という意味を持つフランス語の造語になります。ケアが必要なあらゆる人が対象ですが、特に認知症を持つ方や高齢者のケアで有効と考えられている技法です。

実際にユマニチュードの効果が得られた例として、次のような報告があります。

  • 数年間、寝たきりだった方が自分で立てるようになった
  • 攻撃的と思われていた方がケアを受け入れて笑顔を見せるようになった

ユマニチュードでは「あなたのことを大切に思っています」という気持ちを、言語または非言語のコミュニケーションで伝えることが重視されています。また、コミュニケーションに必要な技術や具体的な手法も定められています。

ユマニチュードは、家族や介護職などケアにあたる方であれば誰でも学んで実践できます。決して専門職だけに限られた技法ではないことも、注目を集める理由の1つでしょう。


ユマニチュードの誕生
ユマニチュードは1979年、フランスの体育学の専門家であるイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティによって提唱されました。

2人は実際にケアの現場に携わるなかで、専門職があらゆるケアをやりすぎていることに気づきました。例えば「歩けるのに車イスを使う」「立てるのに寝たきりで生活させる」という状態です。そこで本人が持つ能力を生かし健康を維持するための技法として、ユマニチュードを生み出しました。

日々のケアで成功したときと失敗したときの違いを研究し、柱となる4つの方法やケアの手順を開発したのです。このように現場での試行錯誤を経て編み出された技術であることも、ユマニチュードの特徴の1つといえます。


日本でのユマニチュードの始まり
ユマニチュードはもともとフランスのケア技法ですので、日本では知られていませんでした。日本で初めてユマニチュードのケアが実践されたのは、2012年のことです。国立病院機構東京医療センター総合内科医であった本田美和子氏が、前年の2011年にフランスを訪れてユマニチュードの考え方を学んだことがきっかけで、日本でもユマニチュードが導入されました。

2014年1月には、日本国内での研修や研究の拠点となる「ジネスト・マレスコッティ研究所日本支部」が発足。2015年にデジタルセンセーション株式会社(現・株式会社エクサウィザーズ)によるユマニチュード研修が始まり、続いて自治体のプロジェクトや大学の研究など徐々に広がりを見せました。

2019年7月には「ジネスト・マレスコッティ研究所日本支部」を前身とする「日本ユマニチュード学会」が設立され、現在もさらなる普及や研究を進めています。


認知症の症状とは
ユマニチュードはケアを受ける方の尊厳を維持することを重視した考え方です。認知症の方にも効果的とされています。認知症の症状には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」の2種類に分けられます。

  • 中核症状: 記憶障害、理解・判断の障害など
  • 周辺症状: 不安・抑うつ、暴力・暴言など

認知症の症状には、思うように意思疎通ができない場合があるため、ケアする側が理解し尊厳を重視することが大切です。


思いを伝えるための「4つの柱」とは
ユマニチュードの根幹にあるのは「あなたは大切な存在です」という思いを伝えることです。ユマニチュードでは「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの技術を用いて、相手に思いが分かるように伝えます。

これらは「マルチモーダル・ケア」と呼ばれる考え方に基づいています。4つの技術は単独で使うのではなく、組み合わせて実施することが重要です。


ケアのための「5つのステップ」とは
ユマニチュードには「4つの柱」に加えて「5つのステップ」があります。

ケアのための「5つのステップ」とは
ユマニチュードの「5つのステップ」は、ケアを行う際に実践する具体的な方法です。これにより、認知症の方とスムーズにコミュニケーションを取りながら、より良いケアを提供することができます。5つのステップは以下の通りです:

  1. 接近
    ケアを始める前に、相手に自分が近づくときは静かに、優しく接近します。急に近づかず、相手が気づくようにゆっくりと接近することが大切です。
  2. 目線を合わせる
    相手が自分を認識できるように、目線を合わせることが重要です。顔の高さを合わせ、安心感を与えることがコミュニケーションの第一歩です。
  3. 言葉をかける
    相手にやさしく、安心感を与える言葉をかけます。認知症の方が混乱している場合でも、穏やかな言葉で話しかけることで、落ち着きが生まれることがあります。
  4. 触れる
    触れることは、安心感を与える大切な方法です。手を軽く握ったり、肩に手を置いたりすることで、心のケアにもつながります。ただし、相手が不快に感じないよう、適切なタイミングで触れることが大切です。
  5. 動作を一緒に行う
    相手が自分で動作をするのが難しい場合、一緒に手伝いながら行動することが重要です。例えば、食事を一緒に食べたり、歩くときに一緒に歩いたりすることで、相手の自立を促すことができます。

ユマニチュードを実践するためのポイント
ユマニチュードを実践する際には、以下のポイントを意識するとより効果的です:

  • 相手のペースに合わせる
    相手が焦らずに自分のペースで進むことができるように、急がず、必要に応じてペースを調整します。
  • 表情と態度に注意する
    言葉だけでなく、表情や態度も大切です。穏やかな表情と優しい態度で接することが、安心感を与えます。
  • 一貫性を持ってケアをする
    ユマニチュードは一貫性が重要です。毎回同じ方法で接することで、相手に安定感を与えることができます。
  • 感情を共有する
    相手の感情を尊重し、共感を示すことが大切です。相手が不安や怒りを感じている場合、その気持ちに寄り添い、安心感を与えることが重要です。

ユマニチュードは、ケアを行うすべての人々に役立つ技法です。これを実践することで、認知症の方々の生活の質を向上させ、より安心した生活をサポートすることができるでしょう。